K's Station

「ご当地萌えキャラマスター」Komaの、愛と笑いのドタバタブログ

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初恋。

   まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき
   前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり。


確か「初恋」だったっけ。そんな詩を国語の授業で習った気がする。
でも、なぜこんな時に思い出したのだろうと、苦笑いを浮かべた。


思えば初恋なんていつだったか。
小学生の時、席の隣の子にいつもちょっかい出してて、よく先生に怒られた。
あれはもしかしたら、好きだった気持ちを隠そうとしてた、
子供なりの愛情表現だったのかもな。


そんな初恋かどうかもわからない時は過ぎ、
そして今、僕にもそれなりに彼女と呼べる人ができ、今もこうして彼女といる。

といっても、僕の数歩前を一人で歩いてるんだけど。



付き合ってもうすぐ2年目で、キスだってそれなりにした。
でも長く付き合えば付き合うほど、良くないところだって見えてくる。

きっかけなんて、本当に大したことなかった。
食事代をどっちが払うとか、そんな些細なことだったはず。
そんな微かな気持ちのズレが、彼女の不満に火をつけたのか、
さっきから口も利かずに、こうして前をつかつかと歩いてる。


彼女が歩くたび、彼女の長い髪が、怒りに任せて左右に揺れる。
こんな危機的な状況なのに、揺れる髪を見ていると、
振り子みたいで、少し面白いだなんて思ってしまった。


どんな言葉をかけようか。
素直に謝ろうか。何か面白い話でもしようか。

それとも、もう少しこのまま揺れる髪を見ていようか。
悩む僕と彼女の間に、ふと、風が吹いた。



ビルの谷間から吹き付ける風が、彼女の長く黒い髪を容赦なくかき上げる。
彼女の髪が風になびいて、大きな三角形を作る。


「あはははははっっ!」
大きく揺れる彼女の髪が面白くて、僕は声を上げて笑った。
人の目も気にせず、声を上げて笑った。
たまらず彼女が、僕のほうを振り向いた。


彼女が顔を真っ赤にして、僕のほうにやってくる。
「……何よ! 何よなによ何よ!!」
彼女が僕を思い切り叩く。

「ごめんごめん。でも、その長くて黒い髪、何か素敵だなあって」
「もう…知らない!!」
彼女がまた僕の前を歩きだした。


やれやれ。せっかく話すきっかけができたのに、
またふりだしに戻ってしまった。
しょうがないなあ…と、僕は思わずため息をついた。



   わがこころなきためいきの その髪の毛にかかるとき
   たのしき恋の盃を 君が情けに酌みしかな


そういや「初恋」は、こんな詩が続いてたっけ。
ため息が髪の毛にかかるなんて、初恋にしてはずいぶんいい感じの仲じゃねえか。

そんなことを思いながら、僕は彼女の後を追いかけた。



彼女の黒髪の振れ幅が、さっきよりも少し大きくなった気がした。



PS. 「黒髪ロング祭り2011」(水星さん家)参加作品。
黒髪ロングと聞いて、僕が最初に思い浮かんだのが、なぜか島崎藤村の「初恋」でした。
内容はもちろんフィクションですけど、好きな人の怒った姿も悪くないよね(その事後処理が大変ですが)。

あと、誰かイラスト描いてくれると嬉しいなあ…。